口腔内全体をしっかり診断するのが歯科医師の役目

nomura 800 ph0051.jpg
口腔がんと歯科医療には深い関わりがあります。早期発見するためには、自覚症状がない段階で見つけなければなりません。従来の歯科医療は、虫歯、歯周病という2大疾患に対する治療を一生懸命行ってきました。現在、日本は超高齢化社会となり、虫歯や歯周病ばかりでなくさまざまな口腔疾患が起こる頻度が多くなりましたが、その1つが口腔がんであると言えます。もはや、虫歯と歯周病、歯と歯肉だけしか診ない時代ではありません。口腔粘膜をきちんと診断することが、これからの歯科医師の役目です。

「どこで口内炎の治療を受けるか」と尋ねると半数は「内科」と答えます。本来なら歯科で診るべき疾患です。歯周病は、国民のほとんどがかかる、いわば国民病です。歯周病のメンテナンスは歯科医院に通うのが基本であり、半年に一度は歯のクリーニングを受けるのが望ましいでしょう。そのときに口腔粘膜も一緒に診てもらうのが非常に重要なのです。

粘膜疾患は口腔がんだけではありません。前がん病変である白板症、紅板症のほか扁平苔癬、カンジタ症など、約30種類あると言われています。現在大学では、学生教育で粘膜を診る重要性を教えています。これから卒業していく歯科医師は、粘膜を積極的に診る医師が増えていくでしょう。

昔は、粘膜まで診る余裕がありませんでした。虫歯が蔓延しているときは虫歯治療、子どもの虫歯予防に力を注いでいませんでした。しかし超高齢化社会で高齢者が増えて、口腔粘膜の病気が増えてきました。時代の移り変わりによって、歯科医師に求められるものが大きく変わってきたと言えるでしょう。「どの歯科医院へ行っても粘膜を診てもらえる」が求められる時代なのです。

日本はもう少し口腔がんへの認知度を高めれば、うまく早期発見できる国だと思います。おかしいと感じたら「たかが口内炎」「入れ歯が擦れてできた傷だろう」と自己診断せず、歯科医院で検査をしてもらうことが大切です。私はいつも検診のとき「口内炎が2週間経っても治らないときは、歯医者さんへ行ってくださいね」とお話しするようにしています。

他院でベーチェット病(口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状を主症状とする慢性の全身性炎症性疾患)と診断され、経過をみていたら口腔がんだった、という症例がありました。口腔がんへの認識が低かった、というのは忌々しき問題ですが、それでも10年前に比べると、だいぶ"口腔がん"は社会に浸透しています。

ある著名人が口腔がんで命を落とした、という悲しい出来事がありましたが、その一方で治療によってがんを克服して復帰を果たした方もいらっしゃいます。「口の中にもがんができる」「治療すれば十分社会復帰ができる」という認識と早期発見・早期治療、国全体をあげて口腔がん対策を行うことができれば、発症率は劇的に減少するはずです。