大学病院との連携で口腔がん検診の信頼性を上げる

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口腔がん検診の報告は1985年頃からありますが、多くの場合、歯科医師会と大学歯学部口腔外科教室や医学部歯科口腔外科学教室、基幹病院(地域医療の中心位置にある病院施設)の歯科口腔外科が協力して行ってきました。

現在では歯科医師による集団健診と個別健診があり、集団健診は行政や歯科医師会、大学病院や国公立病院の歯科口腔外科が共同で定期的に行っています。国民の多くにかかりつけの歯科医院があることから、個別健診の徹底は口腔がん早期発見、早期治療に大きく貢献することが期待されます。

連携が患者さんを救う大きな砦に

疑わしい症例の患者さんがいた場合、普段から口腔粘膜疾患を診なれていないと、なかなか診断がつきにくいかもしれません。そのようなケースをサポートするために、東京歯科大学では『口腔がん検診ナビシステム』を構築しました。これは、口腔粘膜などに異常がみられる患者さんの問診票を作成し、口腔内の写真を登録することによって、専門医が診断のサポートを行うシステムです。

実際に患者さんのお口の中を診るわけではありませんので診断を下すことはできませんが、経過観察なのか、二次医療機関を受診させた方がよいのかなど、専門医の意見を求めることが可能です。

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開業医と大学病院の連携は、口腔がんばかりでなくほかの口腔疾患の治療内容の向上にもつながります。スムーズな連携はもちろん、大切な患者さんを託すのですから、信頼関係がしっかりとできている必要があります。もしあなたの大切な家族が口腔がんになったらどうしますか?今からあなたが送ろうとしている医療機関で安心でしょうか?まったく状況がわからない、というところへ積極的に送り出すなんてあり得ないはずです。

全国の歯科医師が今まで以上に口腔がんへの理解と知識を深め、研鑽を積み重ねることで、力強いタッグが組めると私は確信しています。

日本人の口腔がんへの危機意識の現状

日本全国に歯科医師は約10万人いますが、口腔がんの発生率が1~3%と低いこともあり、どうしても虫歯や歯周病、インプラントなどの治療に力を入れる傾向が強い状況です。「開業して患者さんの口腔内を診ても、口腔がんを目の当たりにするのは、一生に一度かゼロ」という先生もいらっしゃいますが、口腔がんと咽頭がんにより年間約7,000人が尊い命を失っているのです。

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患者さんが口腔がんを克服し、再び快適な生活を取り戻すためには、何よりも早期発見が大切です。ごく初期の段階、がんの一歩手前で食い止めなければなりません。場合によっては良性の疾患を経由してがんになる可能性もあるので、さまざまな方向から口腔内を診断する必要があります。ある歯科医師は、年間1~2人口腔がんを発見しています。すると「一生に一度か、ゼロ」に大きな疑問がわいてこないでしょうか?

1人でも多くの歯科医師が定期的に口腔がん検診のトレーニングを受け、大学病院との連携を強くし、国民の口腔内全体をケアしていけるようになる必要があると言えます。「口腔がん検診を受けてがんが見つかった」「日本人の口腔がん5年生存率が向上、死亡率が著しく低下した」を1日も早く実現するためにも、歯科医師が一丸となって取り組んでいかなければならないのです。

口腔がんの一般的な治療法

口腔がんは、ほかのがんと同様に、手術療法、放射線療法、化学療法の3つがあります。たとえば舌がんになったとしましょう。3つの療法をどのように使うかは、がんの大きさや患者さんの症状によって異なります。

リンパ節への転移がなく、がんの大きさが2cm以下のステージ1の場合は手術で切除します。どうしても切りたくない、と患者さんが希望する場合には、放射線治療を行うこともあります。2~4cmのステージ2になると、やや大きくなるため手術が主体となります。それ以上ステージが進むと、半分またはそれ以上大きく切除しますので、移植をする必要があります。患者さん自身の前腕の皮膚と脂肪(遊離前腕皮弁)、もしくは腹部から皮膚と脂肪をその下の腹直筋と一緒に採取して(遊離腹直筋皮弁)口腔内に移植します。

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舌半側切除術の術後はやや食べにくさが残りますが、多くの場合、手術を行う前とほぼ同じように食事をすることができます。発音しづらくなる言葉はありますが、日常会話に不自由することはありません。

舌を全部摘出した場合は、前腕筋や大胸筋の一部を切って皮弁を形成し、移植片の動静脈と頸部の動静脈を顕微鏡下で縫い合わせて舌の運動機能を再建します。リハビリによって食べたり飲み込んだりはある程度できるようになりますが、味覚機能は失われ、発音がしにくいため、会話が困難となります。

がんがあまりにも大きくなった場合、放射線で根治するのではなく、大きいものをダウンステージして手術で切除しますので、放射線と手術の併用療法となります。また、切除したあと、予防的に放射線をかける治療法もあります。

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化学療法がどのように行われるのかというと、手術でがんを切除したあと、再発防止に抗がん剤を投与する場合があります。
しかし、化学療法剤によっては、唾液の量を減らしてしまう、出にくくなるといった副作用があります。だ液には口腔内を殺菌する力がありますが、分泌が低下することで、虫歯や歯周病になりやすい、食べ物が飲み込めない、味覚が鈍くなるなどの症状が現れやすくなります。

患者さんへのメッセージ~口腔がんに対する思い~

あなたの身近に潜む口腔がんの危険性
"がん"と聞いて、皆さんが真っ先に思い浮かべるのは5大がんと呼ばれる「胃がん、大腸がん、肝がん、肺がん、乳がん」だと思いますが、実はお口の中にもがんができることをご存知でしたか?「口にがんができるんですか?」と驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。

確かに口腔がんは、がん全体からみると約1~3%と数値は低いものの、絶対にかからないという保証はどこにもありません。がんにかかる原因はさまざまですが、まず気をつけなければならないのは口腔環境です。

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喫煙や飲酒の習慣がある、歯並びが悪い、被せ物や詰め物が不適合、入れ歯がいつも同じ場所にあたって傷ができているなどが、粘膜の褥瘡(じょくそう=皮膚に持続して刺激が加わることで、皮膚や粘膜に傷ができること)を起こす原因となり、やがてDNAの修復機能に異常が発生して発がんする可能性があります。

日本では八重歯が愛らしいと好印象を持つことが多いですが、実はこれも褥瘡の大きな原因となりますので、抜歯する、矯正で粘膜を刺激しないようにするなど、治療を受けたほうがよいのです。「そんなことで口腔がんになるの?」と首を傾げるかもしれませんが、それだけ口腔がんの原因は見逃しやすい、知らなければ見落としてしまうところに潜んでいるのです。

虫歯や口内炎、歯肉炎が口腔がんの原因となる場合があります。そこにさまざまな要因が重なるケースもありますが、口腔がんにかかる人の1日の歯磨き回数は明らかに低い、という統計が出ています。お口の中を清潔に保っていないということは、それだけ口腔内環境に意識が向いていない=非常に危険な状態、といっても大袈裟ではありません。

食事を摂る、煙草を吸う、お酒を飲むなど、お口の中は想像以上に過酷な環境にあります。それだけしっかりケアするべき体の部位でありながらほとんど歯磨きをしないのは、口腔内を積極的に劣悪な環境にしているのと同じなのです。

体内にできるがんと違い、口腔がんはご自身の目で確かめることができます。食後のていねいな歯磨きはもちろん、明るい場所に鏡を置いて、お口の中を隅から隅までしっかりチェックすることを習慣にしてください。

歯科医院が運命の分かれ道になることがあります
入れ歯を作ってほしいと歯科医院を受診した患者さんに、口腔がんが発見されたケースがありました。残った歯がグラグラして歯肉がブヨブヨ、典型的な歯周病の症状で、まず2本歯を抜きました。しかし治りが悪く、残りの歯を抜いたところ、歯肉が盛り上がったような状態となり、がんであることが判明しました。もしこの患者さんが入れ歯を作ろうと思わなかったら、もしかすると発見が大幅に遅れて命を落としたかもしれません。

また別のケースでは、ご自身は歯周病だと思い歯科医院へスケーリングに通っていたのですが、歯石を取っても症状が改善しません。一部潰瘍を起こしている箇所もあったので検査したところ、口腔がんと診断されました。

これらのケースは何らかの症状が表れていますが、口腔がんの初期症状は、口内炎や歯肉炎、潰瘍と見分けがつきにくいという厄介なものです。なかなか治らない口内炎や潰瘍がある、指で触れるとしこりのようなものがあるなど、気になる症状があったら自己診断せず、速やかに歯科医院を受診してください。

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これからは、虫歯や歯周病、入れ歯治療ばかりでなく、粘膜の状態が正常かどうか、口腔がんの疑いがないか検査を受けるために歯科医院へ行く、という時代です。しかし、定期健診や体調の異変を感じて病院にかかったとき「がんではありません」と診断されたが、実はがんだった、がんの一歩手前だった、ということがゼロではありません。「異常なし」と診断されても、不安や疑問があったら積極的にセカンドオピニオンを受けてください。

※セカンドオピニオン
「第二の意見」という意味で、ある医師から下された診断や治療方針について、別の医師に意見を求めること。

柴原孝彦先生のプロフィール

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東京歯科大学 口腔顎顔面外科学講座
主任教授

【経歴】
1979年 東京歯科大学卒業 1984年 同大学大学院研究科修了歯学博士 1984年 同大学助教(口腔外科学講座) 1986年 国立東京第二病院厚生技官 1987年 日本口腔外科学会認定医(専門医) 1989年 東京歯科大学講師(口腔外科学講座) 1993年 ドイツ・ハノーバー医科大学客員講師 1995年 日本口腔外科学会指導医 2000年 東京歯科大学准教授 2004年 東京歯科大学主任教授 2007年 老年歯科医学会専門医 2008年 顎顔面インプラント学会認定医 2009年 がん治療認定機構暫定教育医 2012年 有病者歯科医療学会指導医 2012年 日本口腔外科学会常任理事、
日本口腔腫瘍学会常任理事、
日本口腔科学会理事
2015年 東京歯科大学 口腔顎顔面外科学講座 主任教授


 

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