口腔内全体をしっかり診断するのが歯科医師の役目

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口腔がんと歯科医療には深い関わりがあります。早期発見するためには、自覚症状がない段階で見つけなければなりません。従来の歯科医療は、虫歯、歯周病という2大疾患に対する治療を一生懸命行ってきました。現在、日本は超高齢化社会となり、虫歯や歯周病ばかりでなくさまざまな口腔疾患が起こる頻度が多くなりましたが、その1つが口腔がんであると言えます。もはや、虫歯と歯周病、歯と歯肉だけしか診ない時代ではありません。口腔粘膜をきちんと診断することが、これからの歯科医師の役目です。

「どこで口内炎の治療を受けるか」と尋ねると半数は「内科」と答えます。本来なら歯科で診るべき疾患です。歯周病は、国民のほとんどがかかる、いわば国民病です。歯周病のメンテナンスは歯科医院に通うのが基本であり、半年に一度は歯のクリーニングを受けるのが望ましいでしょう。そのときに口腔粘膜も一緒に診てもらうのが非常に重要なのです。

粘膜疾患は口腔がんだけではありません。前がん病変である白板症、紅板症のほか扁平苔癬、カンジタ症など、約30種類あると言われています。現在大学では、学生教育で粘膜を診る重要性を教えています。これから卒業していく歯科医師は、粘膜を積極的に診る医師が増えていくでしょう。

昔は、粘膜まで診る余裕がありませんでした。虫歯が蔓延しているときは虫歯治療、子どもの虫歯予防に力を注いでいませんでした。しかし超高齢化社会で高齢者が増えて、口腔粘膜の病気が増えてきました。時代の移り変わりによって、歯科医師に求められるものが大きく変わってきたと言えるでしょう。「どの歯科医院へ行っても粘膜を診てもらえる」が求められる時代なのです。

日本はもう少し口腔がんへの認知度を高めれば、うまく早期発見できる国だと思います。おかしいと感じたら「たかが口内炎」「入れ歯が擦れてできた傷だろう」と自己診断せず、歯科医院で検査をしてもらうことが大切です。私はいつも検診のとき「口内炎が2週間経っても治らないときは、歯医者さんへ行ってくださいね」とお話しするようにしています。

他院でベーチェット病(口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状を主症状とする慢性の全身性炎症性疾患)と診断され、経過をみていたら口腔がんだった、という症例がありました。口腔がんへの認識が低かった、というのは忌々しき問題ですが、それでも10年前に比べると、だいぶ"口腔がん"は社会に浸透しています。

ある著名人が口腔がんで命を落とした、という悲しい出来事がありましたが、その一方で治療によってがんを克服して復帰を果たした方もいらっしゃいます。「口の中にもがんができる」「治療すれば十分社会復帰ができる」という認識と早期発見・早期治療、国全体をあげて口腔がん対策を行うことができれば、発症率は劇的に減少するはずです。

患者さんへのメッセージ~口腔がんに対する思い~

定期健診で早期発見
口腔がんの2大危険因子は、喫煙と飲酒です。ヘビースモーカー、ドリンカーはがんになりやすいと言えます。煙草に含まれるニコチン、タールには発がん性物質が含まれる上、熱による粘膜への刺激が口腔がんを引き起こします。これに飲酒が加わると、煙草の発がん性物質がアルコールに溶け出して舌や口腔粘膜に停滞することで、より口腔がんにかかりやすくなります。

これ以外にも、虫歯を放置しておいて歯が欠け、尖った部分が舌に当たることで慢性刺激となりそこからがんが発生したり、合わない入れ歯を長く使っていて粘膜が傷つき、がんになったりすることもあります。

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口腔がんは初期の段階では痛みがありません。普通に食事ができて、発音にも問題はありません。早期に発見できれば当然治癒率も高くなりますが、進行がんになると治療が困難となります。「痛みや出血がある」「口が開きづらい」「物が飲み込みにくい」「うまく喋れない」などの症状が出ると、がんが口の奥深くに入り込んだ状態で、がんを完全に取り除けたとしても後遺症が残ります。

胃がんや大腸がん、肺がんなど体内にできるがんは、胃カメラ、レントゲン、CTなど特殊な装置を使って検査しなければ見つかりません。しかし口腔がんは目に見えるところにできるので、早く見つかるというメリットがあります。

早期発見のために大切なのは、ご自身のお口の中をしっかりと管理することです。ブラッシングなどで口の中を清潔に保つ、口腔がんの予兆がないか(口内炎、潰瘍、白い斑点=白板症、赤い斑点=紅板症など)口の中を毎日チェックする、定期的に歯科医院で舌や粘膜の状態も診てもらうなど、ご自身でできるケアはさっそく今日から始めてください。

口腔がんの存在を再認識してください
口腔がんの症例写真を見ると、皆さん「どうしてここまで放っておいたのだろう?」と驚かれます。原因はやはり「口にがんができる=口腔がんになる」という認識が低いことにあると言えるでしょう。日本人の年平均の歯科医院通院機会は年3回もありながら、口腔がんの死亡率は46.1%です。これは、口腔がんが治癒困難な病気というわけではなく、多くは「がんだと気づかなかった」ことによる手遅れが原因であることがほとんどです。今一度「口腔がんは存在する」ということを、しっかり認識してください。

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お口の中に限らず、どのがんでも治療法は大きく分けて3つあります。手術による治療、放射線治療、抗がん剤による化学療法。ただし口腔がんの場合は、残念ながら抗がん剤だけでは治りません。

症状により異なりますが、多くの場合手術が選択されます。進行がんの場合、3つの治療法を組み合わせて行いますが、放射線は口腔乾燥という副作用を伴う場合があります。唾液が出なくなってしまうと、(お口が乾燥して)痛みで食事ができない、歯周病で歯を失うなどの症状が起こりやすくなります。なるべくこまめにうがいをして乾燥を防ぎ、食事は硬いもの、熱いものを避ける、歯科医院で適切な処置を受ける(投薬、クリーニング)などのアフターケアを行う必要があるでしょう。

昔は「がんは切除すればよい」でしたが、これからはいかにQOL(Quality of Life=クオリティ・オブ・ライフ(生活の質))を高めながらがんを根治するかが重要となっています。「これまでどおり食事や会話ができる」が我々のゴールであり、患者さんの幸せなのです。

いつまでも食事を美味しく食べ、スムーズに会話ができるのは、健康な口腔内環境であればこそです。なかなか治らない口内炎はありませんか?虫歯を放置していませんか?その入れ歯は合っていますか?口腔がんは、発症率は低いとはいえ対岸の火事ではありません。怖がる必要はありませんが、危機意識は持つべきでしょう。

野村武史先生のプロフィール

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東京歯科大学 オーラルメディシン・口腔外科学講座
主任教授

【経歴】
平成7年3月 東京歯科大学卒業 平成7年4月 東京歯科大学大学院歯学研究科
(口腔外科学専攻)
平成12年4月 東京歯科大学口腔外科学第一講座 助手 平成18年4月 東京歯科大学口腔外科学講座 講師 平成21年7月 カナダ・ブリティッシュコロンビア大学歯学部 Oral Biological and Medical Sciencesに客室研究員として研究留学 平成25年7月 東京歯科大学口腔外科学講座 准教授 平成26年6月 東京歯科大学口腔がんセンター 准教授 平成27年4月 東京歯科大学
オーラルメディシン・口腔外科学講座
主任教授


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