歯科医師と大学病院の連携の重要性

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口腔がんを発見する高いスキルが必要
がんの早期発見の割合は、舌が23%、頬粘膜が8%、そして歯肉が6%です。目で見える場所であるにも関わらず早期発見率が低いのは、多くの方が「お口の疾患は虫歯や歯周病」だと思い込んでいる、という点にあります。口腔がんの初期は口内炎や潰瘍と区別がつきにくく、医師でも見逃してしまう場合があります。また、顎の中にできるがんは目で確認できないため、初期発見は困難を極めます。


痛みを伴うまでになるとがんが進行している状態ですが、ここで大きなポイントとなるのは痛みです。もちろん、虫歯や歯周病、親知らずにも痛みがあります。前がん病変である白板症の場合でも痛みます。 「キリキリ痛む」「ズンとする痛みを感じることがある」「安静にしていても痛い」患者さんからの訴えに対して、その痛みの原因が何であるかを正しく判断する能力が求められています。

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私は、口腔がんばかりでなく、どのようながん検診においても"がんではないことを否定するべき"と考えています。裏を返せば、徹底的にがんを疑え、ということです。口腔外科では、口腔がんの可能性があると診断した場合に細胞診を行います。口腔がんの多くは粘膜表面の扁平上皮に発症するので、疑わしい部位の表面を軽く擦り取り、詳しく検査します。その結果、がんでなければ安心というわけです。"がんであるわけがない"という意識で取り組むのと"がんではないことを否定する"大前提で患者さんのお口の中を診るのとでは大きな違いがあります。そしてそれが、今後の口腔がん発見率を左右するのです。

口腔がんの患者さんと真摯に向き合うために

●手術の前に伝えておくべきこと
口腔がんに限らず、どのような手術でも患者さんの多くは不安を抱えています。口腔がんでは手術部位や範囲によって機能障害が残る場合がありますが、手術が終わってから、ようやく機能障害に対するリハビリ方法を伝えられるのは酷です。術前から、舌の運動訓練、呼吸訓練、排痰訓練などを行いましょう。

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●術前に大切な口腔ケア
口腔がんの発見から手術まで、およそ2週間くらいです。術前に歯科医院でクリーニングなどの口腔ケアを行い、患者さんにも口腔内を清潔にするよう指導してください。これによって、術後の合併症リスクを減少させることができます。

●術前にできる評価
口腔機能の評価を行うことで、術後の機能障害の程度や回復の予測が可能となります。評価は術後も引き続き行い、口腔機能ばかりでなくQOLも併せて評価しましょう。

●術後の口腔ケア
口腔内を清潔に保つことは、感染予防と嚥下性肺炎の防止につながります。

●連携によって患者さんのQOLを高める
機能障害に対する治療を行う場合、患者さんの状態の記録、障害の予測、リハビリテーションが必要です。そのためには、歯科医師だけでなく、歯科衛生士、歯科技工士、看護師、薬剤師、理学療法士、言語聴覚士、心理療法士、栄養管理士、臨床検査技師、診療放射線技師などの連携による医療が、患者さんのQOLを高める役割を果たします。

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たとえば舌がんで舌の半分以上を切除し、腹部などの筋肉で再建を行った場合。見た目は舌の形をしていますが、神経がつながっていないので自在に動かすことができません。そのため上手に発音できず、ロレツが回らない状態となります。再びコミュニケーションがとれるようになるには、言語聴覚士による発音の訓練が欠かせません。食事に関しては、すぐに固形物が食べられない、または食べられるものが限られる場合は、健康維持のための栄養管理士による食事に対する適切なアドバイスが必要です。

時には不自由な生活が続いて、メンタルに影響を及ぼすことがあるかもしれません。その際は心理療法士が患者さんのお話にじっくりと耳を傾け、適切なケアを行う必要があります。ほかにも下顎骨欠損、上顎骨欠損といった場合の顎顔面補綴治療では、歯科技工士の高い技術が要求されます。

このように、口腔がん治療の連携のネットワークをますます充実させることが、今後の大きなテーマとなってくるでしょう。

患者さんへのメッセージ~口腔がんに対する思い~

口腔がんの半分を占める舌がんは予防できます

口腔がんとは、文字どおりお口の中にできるがんで、舌、歯肉、口腔底、頬の粘膜、口蓋に発症します。中でも一番多いのが舌がんで、口腔がん全体の約半分を占めています。

舌は、味を感じるばかりでなく、細かく噛んだ食べ物を唾液とまんべんなく混ぜ、消化しやすい状態にする、嚥下(飲み込むこと)をスムーズにする、という働きがあります。そしてコミュニケーションに大切な発声にも大きな役割を果たしています。もし舌の機能が大きく失われたら、食べる楽しみが奪われてしまうばかりでなく、体によくないもの(腐っている、異物が混入している)を口にしたときに気づかない可能性があります。会話も不自由となり、人と接するのが億劫になってしまうかもしれません。

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口腔がんの原因は、喫煙、飲酒、慢性的刺激、口腔内の不衛生、虫歯、歯周病、感染症などとされています。そのうちの1つである慢性的刺激ですが、これは舌の形態と大きな関わりがあります。舌の裏側にある筋、舌小帯が短い状態を「舌小帯短縮症」と言います。舌が上の歯の裏につきにくい、舌を出したとき舌の先がハート型になる人は、この舌小帯短縮症である可能性が高いと言えます。稼動範囲が非常に狭いので、同じ箇所がこすられる状態=慢性刺激となって、そこにがんができやすくなります。舌小帯短縮症の治療は局所麻酔をして切るという方法が一般的ですが、粘膜は比較的治りが早く、舌の稼動率が広がることで滑舌がスムーズになります。

鏡の前でお口を大きく開け、舌の側面を見てください。ギザギサしていませんか?巨舌症やむくみ、食いしばりが原因で歯の形が残る場合がありますが、下の歯並びが悪い、全体的に内側に倒れている状態のときに舌がギザギザになる傾向があります。このときも、舌に歯が当たる慢性刺激となって、がんが発生する可能性があります。

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舌は自分の目で確かめやすい部位です。清潔なガーゼなどで舌を挟み、軽く引っ張るようにして細かい部分をチェックしてください。次のような症状が1つでもあれば、歯科医院で詳しく検査を受けましょう。

<チェック項目>
舌にしこりがある 舌の側面に詰め物や被せ物、入れ歯などがあたって傷ができている 舌にできた潰瘍から出血がみられる 舌に白い膜が付着している 赤い斑点や白い斑点がある 腫れや痛みがある

早期発見すれば口腔がんは怖くない

スキルス性胃がんをご存知でしょうか?一般的な胃がんは胃の粘膜の表面に異常が現れるため発見しやすいのですが、スキルス性胃がんは粘膜の下にがん細胞が広がっていくため発見されにくく、転移が早いという厄介なものです。一方、口腔がんは約5年かかってがん化しますので、半年に一度定期健診を受けておけば、十分に早期発見が可能です。

口腔がんに関するサイトを開くと"口腔がんを予防、早期発見するために歯科医院へ定期健診に行ってください"という言葉をたくさん目にすると思います。定期健診はとても大切なことですが「すべて歯科医師にお任せ」としないでください。

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自分の体の状態を一番わかっているのは、誰でもない自分自身です。口内炎ができたからすぐに口腔がんを疑って歯科医院へ行くのではなく、2週間経って治るかどうか様子をみてみる。頬にできた潰瘍を「心配することはありません」と診断されたものの、いっこうに治らない、指で触れるとしこりのようなものがあるときは再度受診してみる、もしくはほかの歯科医院でセカンドオピニオンを受けるなど、ご自身のお口の健康に積極的になってください。

最近こそ少なくなりましたが、やはり"話しかけにくい""質問すると眉間にシワを寄せる気難しい歯科医師"がいるのは確かです。患者さんには、ご自身の体の状態をより詳しく知り、疑問があれば専門家である歯科医師に説明してもらう権利があります。また、医療で大切なのは、技術はもちろん、患者さんと医師との信頼関係であると私は考えています。話すことで、患者さんの生活習慣がある程度把握できる、場合によっては疾患の原因となる事柄に気がつくこともあるでしょう。歯科に関らず、どの医院へ行くかの選択肢に「話に耳を傾けてくれる医師であること」を加えてみてもよいのではないでしょうか。

こちらのサイトでも、口腔がんについての説明や症状、治療内容などをお知らせしています。「口腔がんは恐ろしい」とネガティブになるのではなく「こういう症状のときは、このように対処してみよう」「より有効に医療機関を利用しよう」などポジティブに活用してください。繰り返しますが、口腔がんはほかのがんに比べて予防しやすく、早期発見、早期治療が十分可能です。口腔内環境を整え、美味しく食事ができて、楽しく会話ができる毎日をお過ごしください。

柳下寿郎先生のプロフィール

柳下寿郎先生

日本歯科大学附属病院 歯科放射線・口腔病理診断科
教授

【経歴】
1989年 3月 日本歯科大学歯学部 卒業 1993年 3月 日本歯科大学大学院歯学研究科 修了 1993年 4月 日本歯科大学歯学部病理学教室 助手 1996年 1月 州立フロリダ大学歯学部 客員研究員 1998年 4月 日本歯科大学歯学部病理学教室 講師 1998年10月-2004年 8月
東邦大学医学部第一病理学講座 非常勤研究員 2001年10月 人体解剖資格医 取得 (第7494号) 2004年08月 口腔病理専門医 取得 (第126号) 2004年10月 日本歯科大学歯学部病理学講座 准教授 2005年10月 日本歯科大学附属病院口腔病理診断室 異動 2009年 4月 日本病理学会 評議員 2010年 4月 口腔腫瘍学会 評議員 2011年12月-2013年11月
科学研究費委員会専門委員
2012年 4月 日本歯科大学附属病院歯科放射線・口腔病理診断科 科長 2012年 4月 口腔病理専門医研修指導医 2012年12月 細胞診専門歯科医認定医 取得 2014年12月 1日 東京医科歯科大学非常勤講師 2015年 4月 1日 東邦大学医学部客員講師

埼玉県立がんセンター病理科 非常勤研究員


年に1回は口腔がん検診・口腔健診を受けましょう

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